あなたの一言が、この夏、ゾワっとする怪談になりました。
8月13日は「怪談の日」。
今年は、女の子・会員さまから募集した「怪談に入れて欲しい単語」をもとに、オリジナル怪談を制作しました!
集まった単語はなんと61個。たくさんのご参加、本当にありがとうございました!
何気ない一言も、不思議な言葉も、みなさまから寄せられた言葉が集まり、ひとつの怪談になりました。
どんな物語が生まれたのか、ぜひ最後までお楽しみください。
今回集まった単語一覧
祖母が死んだあと、私は嫁と二人で、山奥にある祖母の家を片づけに行った。 家の裏には竹藪があり、そのさらに奥には小さな祠がある。 子どもの頃、祖母からは、 「日が暮れてから、あの祠には近づくな」 と何度も言われていた。 理由を聞くと、祖母は決まってこう答えた。 「言霊ってのはね、口にした言葉に宿るんだよ。だから、呼ばれたって返事しちゃいけない」 意味はよく分からなかった。 ただ、祖母の話には妙な具体性があった。 祠へ向かう階段は十二段。 もし十三段になっていたら、絶対に上ってはいけない。 いわゆる「段数が変わる階段」というやつらしい。 私は昔から怪談マニアだったので、むしろ面白がっていた。 祖母の家に着いたのは夕方だった。 途中、細い山道で巨大なタンクローリーとすれ違った。その直後、道路脇に羊が一頭立っているのが見えた。 その羊の隣には、やけに目立つ犬。 そしてなぜか、犬は後ろ脚に片方だけ靴下を履いていた。 「何あれ」 嫁が笑った。 私も笑った。 そのときは。 家の中は、祖母が生きていたころのままだった。 台所には金時甘納豆。 冷蔵庫にはこんにゃく、わかめ、マッシュルーム。 棚には泡盛度数40度と書かれた瓶、おちょこ、それにカモミールのティーバッグ。 冷凍庫にはチョコチップ。 なぜか洗面所にはタピオカ。 トイレには大量のトイレットペーパー。 「おばあちゃん、備蓄の方向性が自由すぎない?」 嫁が言った。 私は笑いながら、居間にあった箱を開けた。 積み木。 七五三の写真。 競馬新聞。 水族館のパンフレット。 そこにはセルフィンプレコという魚に丸がつけられていた。 さらに、古びた聴診器まで出てきた。 そして、一番底に一枚の写真があった。 祖母と私のツーショット。 ただし、私たちの後ろに知らない女が写っていた。 異様に背が高い。 八尺様という怪談を思い出した。 私は写真を伏せた。 「何?」 「いや、何でもない」 嫁は別の段ボールから、モンブランの箱を見つけていた。 賞味期限は十五年前だった。 「食べる?」 「アチョー(`・ω・)っ」 私は意味もなく箱を払いのけた。 「何それ」 「危険物を排除する掛け声」 くだらないやり取りだった。 だから、油断していた。 夜八時。 家の外から、 チリン。 鈴の音がした。 少し間遠に、 チリン。 また鈴の音。 嫁が窓を見た。 「誰かいる?」 「鹿とかじゃない?」 「鹿って鈴つけてる?」 そのとき、玄関の外から子どもの声がした。 「うしろのしょうめんだ~れ?」 嫁と顔を見合わせた。 私は答えなかった。 祖母の言葉を思い出したからだ。 ――呼ばれたって返事しちゃいけない。 すると二階から、 ドン。 音がした。 この家には私たちしかいない。 私は懐中電灯を持ち、階段へ向かった。 一段。 二段。 三段。 数えながら上る。 十段。 十一段。 十二段。 十三段。 そこで止まった。 この家の階段は十二段だったはずだ。 「段数が変わる階段……」 呟いた瞬間、壊れたはずのスマートフォンがポケットの中で震えた。 画面が勝手に点灯する。 通知が一件。 アカウント停止 何のアカウントなのか表示されていない。 続いて、動画が自動再生された。 映っていたのは、どこかのプールだった。 水面いっぱいにフジツボが浮いている。 プールサイドには、かっぱ。 その横にゴリラ。 さらに白い服の怪人が立っていた。 怪人はラーメンの器を持っている。 器には、 超大盛 と書かれていた。 意味が分からない。 だからこそ怖かった。 動画の奥から、妙に陽気な声が聞こえた。 「ワンツーイヤホイ!」 続いて、 「ライブでゴーゴー!」 画面が暗転した。 そして白い文字。 愛と無関心 意味不明だった。 次の瞬間、スマートフォンのインカメラが勝手に起動した。 画面には私の顔。 そして、私のうしろ髪に触れる、長い女性の髪の毛。 背筋から…何か冷たいものが這い上がった。 振り返れなかった。 「あなた」 下から嫁の声。 「階段、何段だった?」 私は答えなかった。 代わりに、スマートフォンの画面の女が笑った。 「見つけた…」 私は階段を駆け下りた。 嫁の腕をつかみ、そのまま外へ出た。 竹藪の向こうから水音がする。 こんな場所に川などないのに、巨大な滝の音だった。 祠の前には卒塔婆が並んでいた。 その一本一本に、しゃれこうべが乗っている。 私は戦慄した。 嫁が突然、腕を掻き始めた。 「かゆい……」 見ると、皮膚に蕁麻疹が広がっている。 「どうした?」 「分からない。でも……」 嫁は祠を指さした。 扉が開いていた。 中には鏡が一枚。 その鏡の前に、お花畑が広がっていた。 もちろん、鏡の中だけに。 花畑の中央には女が立っていた。 長い髪。 異様な長身。 その周囲を、八つの蛇の首が取り囲んでいる。 「ヤマタノオロチ……?」 私が言うと、嫁が首を振った。 「違う」 「じゃあ何?」 「セイレーン」 ますます意味が分からない。 その瞬間、鏡の女が口を開いた。 歌が聞こえた。 美しい声だった。 聞いていると、どうでもよくなってくる。 祠も。 祖母も。 嫁も。 自分の命さえも。 これが「愛と無関心」の意味なのかもしれない、とぼんやり思った。 嫁が私の頬を叩いた。 「聞いちゃダメ!」 我に返った。 私たちは走った。 竹藪を抜けると、なぜか祖母の家のエレベーターの前に出た。 祖母の家にエレベーターなどない。 扉が開く。 中には、古い美術館のような空間があった。 壁一面に絵が並んでいる。 羊。 滝。 プール。 ミステリーサークル。 そして最後の一枚。 タイトルは、 「うしろのしょうめん」 絵の中には私と嫁が描かれていた。 私の背後には、あの長い女。 嫁の背後には、聴診器を首にかけた怪人。 その怪人は、嫁の背中に聴診器を当てている。 ドクン。 音がした。 私の胸ではない。 絵の中からだ。 ドクン。 ドクン。 私は恐怖をごまかすように腹を押さえた。 なぜかその瞬間、「最近、皮下脂肪増えたな」という場違いな考えが浮かんだ。 すると絵の怪人が笑った。 まるで私の思考を読んだように。 嫁が叫んだ。 「エレベーター閉めて!」 閉ボタンを押した。 扉が閉じる直前、怪人がこちらを向いた。 顔はなかった。 代わりに口だけがあり、 「次は、お前がしょうめん」 と言った。 気づくと、私たちは祖母の家の玄関に立っていた。 朝だった。 昨夜のことが夢だったのかと思った。 祠を確認しに行った。 階段は十二段。 中には何もない。 鏡も、卒塔婆も、しゃれこうべも。 嫁は笑った。 「疲れてたんだよ」 私もそう思うことにした。 帰り道、サービスエリアでラーメンを食べた。 嫁はモンブランを買った。 私は金時甘納豆。 全部、普通だった。 ただ一つだけ。 家に帰ってから、スマートフォンの写真フォルダに見覚えのない画像が一枚増えていた。 昨夜の祠の前で撮られた、私と嫁のツーショットだった。 撮影者はいないはずなのに。 しかも写真の端に、あの羊と、靴下を履いた目立つ犬が写っている。 さらに上空には巨大なミステリーサークル。 中央に、 うしろ と読める模様があった。 私は反射的に背後を見ようとした。 そのとき嫁が言った。 「振り向かないで」 「なんで?」 嫁の顔から笑みが消えた。 「今、あなたの後ろから鈴の音がする」 チリン。 私は固まった。 チリン。 そして耳元で、女の声。 「うしろのしょうめんだ~れ?」 私は答えなかった。 すると今度は、もっと近くから聞こえた。 「返事しないの?」 私は目を閉じた。 その瞬間、壊れたはずのスマートフォンが震えた。 新しい通知。 写真を保存しました。 恐る恐る画面を見る。 そこには、今この瞬間の私が写っていた。 背後に女がいる。 長い女性の髪の毛。 異様に高い身体。 その手には聴診器。 そして女の肩には、なぜかセルフィンプレコが乗っている。 その隣ではゴリラが、おちょこを持っていた。 怖いのに、情報量がおかしい。 だが、さらに奇妙なのは写真の下だった。 小さな文字で、 撮影場所:美術館 と表示されていた。 私は美術館になどいない。 そう思った瞬間、家の壁が消えた。 周囲には絵が並んでいた。 羊。 かっぱ。 フジツボ。 タピオカ。 こんにゃく。 マッシュルーム。 チョコチップ。 わかめ。 そして最後に、私。 私は絵の中にいた。 ガラスの向こう側で、嫁がこちらを見ている。 いや。 あれは嫁なのだろうか。 女は私の前に立ち、聴診器を胸に当てた。 そして、嬉しそうに囁いた。 「ちゃんと聞こえる」 ドクン。 「まだ生きてる」 ドクン。 「じゃあ、次の七五三まで飾っておけるね」 意味を尋ねようとした。 だが、声が出ない。 口を動かすたびに、金時甘納豆が一粒ずつ落ちた。 女の後ろではゴリラが泡盛度数40度をおちょこに注ぎ、 「ワンツーイヤホイ」 と小声で言っている。 そこで私はようやく理解した。 これは夢ではない。 怪談ですらない。 言霊だ。 祖母が恐れていたのは、幽霊ではなかった。 口にしたものが、全部こちら側へ来てしまうことだったのだ。 だから祖母は、余計なことを言わなかった。 私は最後の力で、たった一言だけ呟いた。 「出口」 すると目の前に階段が現れた。 十二段。 私は駆け上がった。 十二段目に足をかける。 その上には―― 十三段目。 私は止まった。 背後で女が笑う。 「言ったでしょう?」 私は振り返らない。 「何を……?」 鈴が鳴った。 チリン。 女は囁いた。 「言葉には、気をつけて」 十三段目の上から、無数の声がした。 「うしろのしょうめんだ~れ?」 私は前だけを見た。 だが。 階段の上にある鏡には、 私の正面に立っている女が、 はっきり映っていた。 ◆完成した怪談を読む(※タップで開く)
※恐怖表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 十三段目のしょうめん
女の子の【オリジナル怪談】紹介!
怪談企画に参加してくれた女の子が作成してくれた、個性が光るオリジナル怪談をご紹介します!
あなたの単語、見つけられましたか?
今回の怪談は、みなさまから寄せられた「単語」を組み合わせて生まれた、この夏だけのオリジナル怪談です。
応募した単語がどこで登場したのか、気づいた方もいれば、「まさかこんな形で使われるなんて!」と驚いた方もいるかもしれません。
一人ひとりの単語が集まったからこそ完成した、世界に一つだけの物語です。
ご参加いただいたみなさん、本当にありがとうございました!
……そういえば、あなたが今回ご応募された「その言葉」。
今夜、あなたの後ろにも現れていませんか?
言霊には、くれぐれもお気をつけくださいね。
