オリジナル怪談

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きこ

深夜二時、残業を終えて静まり返った新興住宅街を歩いていたときのことです。
街灯がぽつり、ぽつりと点在する夜道に、不釣り合いな音が響き渡りました。
――チリン……
涼やかで、どこか澄んだ鈴の音でした。
こんな夜更けに猫でもいるのだろうか。そう思って足を止め、暗闇を見回しましたが、通りには人っ子一人いません。気のせいか、と再び歩き出した瞬間、
――チリン、チリン……
今度は、少し近くで聞こえました。しかも、アスファルトの上を軽やかに足早に近づいてくるようなテンポです。
違和感を覚えたのは、その音の「高さ」でした。
鈴の音といえば、普通は腰やバッグの高さから聞こえるはずです。けれど、その音はまるで地面すれすれの低い位置から揺れているように思えました。
冷や汗が背中を伝います。振り返ってはいけない、と直感が警鐘を鳴らしていました。私は俯いたまま、歩幅を速めました。
――チリンチリンチリン!
音は勢いを増し、ついに私のすぐ後ろ、足元にまで迫ってきました。あまりの恐怖に耐えかね、私はそのまま自宅マンションのエントランスへ滑り込み、オートロックのガラス扉を激しく閉めました。
ガチャン、と重い音が響き、ようやく安全な空間に入ったと胸を撫で下ろした、その時です。
ガラス越し、街灯の薄暗い光の中に「それ」が見えました。
扉のすぐ外、地べたに這いつくばっていたのは、真っ黒な長髪の女でした。
女は首を妙な角度に折り曲げ、こちらをじっと見上げています。
そして、その首元には――
太い縄でしっかりと、真っ赤な大きめの古びた鈴が括り付けられていました。
女がニヤリと歪んだ笑みを浮かべ、首を横に振るたびに、
――チリン……チリン……
澄んだ美しい音色と、ガラスを引っ掻くような低い低音が、真夜中のエントランスにいつまでも響き渡っていました。

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