【オリジナル怪談】
オフライン
ゆうこ
未就学児だった頃、父の実家のある田舎に時々預けられていたことがありました。祖父母は農作業で忙しく、近隣に同世代の***もおらず、遊び相手がいなかったため、周辺の野山でひとりで遊びまわっていることが普通でした。
ある時、行ったことのない方向の山道を歩いて行くと、鬱蒼とした竹藪があり、そこを通り抜けると滝がありました。ごうごうと水が流れ落ちていくさまに見とれていると「ひとりなの?」と突然声をかけられ、驚いて振り返ると自分と同じくらいの***がいました。びっくりして硬直していると、その子はニコッと笑って「いっしょにあそぼ!」と手をつかみ、「こっちこっち!」と歩きだしました。
最初は戸惑ったものの、同世代の***に会えたことがうれしくて、その後は毎日竹藪を抜けた先でその子と毎日遊び、仲良くなりました。
そんな日が何日か続いたある日、父が迎えに来て急に家に帰ることになりました。そして、またしばらくすると祖父母のもとに預けられる。そのたびに竹藪の先にいるあの子に会いに行き「なんで急にいなくなったの?」と悲しい顔をされ、また楽しく遊んでは別れて……を繰り返していました。
当時は幼くてよくわかっていませんでしたが、この頃、両親の関係が悪化していたのです。ついに離婚することになり、自分は母親と暮らすことになりました。父と父方の親戚とは縁を切ることになり(その辺りもきちんと理解したのはずっと後のことでしたが)、父の田舎にはもう行かないことになったのです。
最後に、あの竹藪の向こうの滝のところに行って、幼いなりにもうここには来られなくなったことを説明しました。
しょんぼりした様子のあと、その子は顔をパッと上げて
「すぐには無理だろうけど、きっとまたここに来て。待ってるから。ずーっと、何年でも待ってるから……!!」
そう言って、手首の辺りをぎゅーっと強く握りました。正直かなり痛かったけど、自分も同じような気持ちだったので、がまんしました。
それから母と暮らし始め、学校にも行くようになり、その幼い日々の出来事はすっかり忘れてしまっていました。
あれから、数十年……。
出張でたまたまこの土地に来た、その瞬間に、唐突に記憶が脳裏に蘇った。
そういえばと芋づる式に、どんどん思い出していく……。
友だちができたと祖父母に報告した時に、この辺に小さい子はいない、どこの子だろうと不思議がられたこと。
それから、なんとなくその子のことは話しづらくなり、言わなくなったこと。
そもそも、滝があるのはずっと遠くの山の中で、***の足で行けるような場所ではないこと。
滝の近くにお堂のようなものがあり、そこでよく遊んだこと。
別れ際に、跡がつくくらい手首を握られたこと……。
出張で初めて来た場所だと思っていた。小さいころのことだから、そこがどこかを知らなかっただけだった。ここだったのか、と鼓動がはやくなっていく。
できるだけ平静を保つようにして仕事を終わらせたあと、確か祖父母の家の比較的近くに郵便局があったと、それを目印に調べてそれらしき場所を地図で確認して向かった。
ずいぶん時間が経っているのに、幼い頃の記憶にある風景が目に飛び込んできた。足が早まる。山道に入り、竹藪を抜け、滝の音が……。
手首をぎゅっと掴まれた。
見下ろすと、***がいた。あの子が、あの時の姿のままで。
「やっと来てくれた!ずっと、ずーっと待ってたよ!」
終
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