煙草

貴方が煙草を吸う
火をつけるとき
ちょっとだけ眉間に寄るシワが好き
煙たそうな不機嫌そうなその一瞬の表情
普段の優しい貴方は絶対に見せない顔
いつもこっそり盗み見てしまう

お酒を飲んだ時だけ、私も一服に付き合う
いつも貰い煙草だから貴方の煙草の銘柄が覚えられない
頂戴、と声をかけると１本だけ差し出される煙草
慣れない指で口に運ぶ
貴方は慣れた手つきでライターに火をつけて、私はそれに体を寄せる
火をつけたその一口目が、一番苦くて煙たい

二口目
すーっ、と肺の奥まで吸い込む
お酒で火照り気味の体の脈動が締め付けられるのを感じる
ふっ、と吐き出した煙は、貴方のそれと混じり合って彷徨う

こんなに簡単に混じり合えたらいいのに
貴方に夢中になりすぎないように細心の注意を払っている
貴方の最低なところを必死にかき集めて反芻する
どうか嫌いでいさせてほしい、そう願えば願うほどにどうしようもないくらいに自分の気持ちに気付いてしまう
どうかこれ以上この感情が育ちませんように

三口目
深く、深く、深く
肺から全身へ、ニコチンが巡る感覚
血流が圧迫されて、指先が冷たく感じる刹那
脳への血流と思考が阻害される
鈍化する意識
この感覚はベッドで首を締められたときのあの感覚に似ているなと、いつも思う

先に吸い終わった貴方は私が終わるまで隣で待っていてくれる
他愛もない話をする貴方はいつも優しい
貴方の左手に目をやる
いつからか隠そうともしなくなった指輪
それから意識をそらしたくて
もう一度吸い込む煙
考えるだけ無駄だ
貴方がここにいる
私にとってはそれが全て

煙草の匂いは私の髪と指先にまとわりついて
この匂いのせいで明日も貴方を想うはめになる
貴方の煙草の銘柄は何だった？
ひとりの夜に買いに走ってしまわないように
私は貴方の煙草の銘柄を知らない



煙草を吸う人も吸わない人も
それにまつわるエピソードや思い出があったりするんじゃないかな
最近の若い人はもうあまり吸わないのかもね
私にとっての煙草は、ちょっと大人でギルティなイメージ
匂いは思い出につながる力が強いと聞いたことがある
煙草、香水、シャンプー、洗剤、体臭、、
その匂いにふいに出会うと一瞬で思考がタイムスリップして、当時と今が重なりあって目眩すら感じる
その時の感情や音楽や思いが一気に押し寄せてくる
匂いって、すごい



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